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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2072号 判決 1950年7月17日

被告人

佐野隆次

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人角屋小三郎の控訴趣意第一点について。

記録を精査すると被告人に対する本件酒税法違反被告事件は昭和二十四年五月二日信濃中野税務署収税官吏大蔵事務官牧内春雄から、国税犯則取締法第十三条但書第二号の事由(犯則嫌疑者逃走ノ虞アルトキとの事由)により飯山区検察庁に告発があり、次いで同月十一日長野地方検察庁検察官山浦重三により、長野地方裁判所に公訴の提起がなされたものであること、及び被告人が右告発前である同年四月三十日酒税法違反の嫌疑に基ずき、飯山簡易裁判所柳沢裁判官の逮捕状により中野警察署司法警察員千原忠一郎に逮捕され、右告発当時はなお、身柄拘束中であつたことが認められる。而して所論は、右のように身柄拘束中であつて、逃亡又は証拠湮滅の虞は全然なくなつたのであるから、事件の調査に当つた前示牧内収税官吏は右のように国税犯則取締法第十三条但書による告発をすることができない場合であるにもかゝわらず該規定を濫用して敢えて告発をしたものであつて、この告発は違法であり、この違法の告発に基ずいて行われた本件の公訴提起は不適法であるから、従つて、これを看過して有罪の言渡をした原判決は破棄を免れない旨主張するにより、按ずるに右牧内収税官吏の告発は被告人が逮捕状により司法警察員に逮捕され、身柄の拘束を受けている間になされたものであることは、前示の通りであるから、右告発当時においては被告人の身柄は前記司法警察員の意見又は同司法警察員より所定時間内に、その送致を受けることのあるべき検察官の意見の如何により、何時釈放されるかも判らない関係にあつたことが明らかであつて、従つて身柄拘束中だから逃走の虞がないとの所論は到底採用し難いばかりでなく、かえつて前記牧内収税官が右告発当時において所論のように被告人の身柄拘束中である事実を知つていたとしても、これに対し逃走の虞があると認定することは、必ずしも無理ではない状況にあつたものと認められるのである。而して収税官吏の告発の原因である犯則嫌疑者に逃走の虞があるかどうかの認定は、当該収税官吏の判断に任されていると解すべきことは、国税犯則取締法第十三条の規定の解釈上疑いのないところであるから、前示牧内収税官吏がその職権に基ずき、右国税犯則取締法第十三条但書によつて行つた前記告発は適法であつて、これに基ずき検察官より提起された本件公訴も亦適法であると言わなければならない。しからば、原裁判所が本件につき事件の実体的審理を行い、証拠に基いて有罪判決をしたことは当然であつて、その他記録を精査するも原判決には所論のような違法はないから論旨は理由がない。

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